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東京高等裁判所 平成12年(ラ)273号 決定

抗告人

株式会社ディーシーカード

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

吉原省三

小松勉

三輪拓也

竹田吉孝

相手方

主文

原決定を取り消す。

本件移送の申立てを却下する。

抗告費用は相手方の負担とする。

理由

第一抗告の趣旨及び理由

抗告人は、主文と同旨の裁判を求め、その理由として別紙≪省略≫のとおり述べた。

第二当裁判所の判断

一  一件記録によれば、次の事実が認められる。

1  抗告人は、平成一一年一二月一四日、相手方を被告として、①カード契約に基づくカード利用代金(キャッシングサービス)、②継続的金銭消費貸借契約(セットローン)に基づく貸付金、③マイカードローンの保証委託契約に基づく求償金合計一四二万〇八五〇円とそのうちの元金に対する遅延損害金の支払を求めて、東京地方裁判所に基本事件(同裁判所平成一一年(ワ)第二七九三九号貸金等請求事件)にかかる訴えを提起した。

東京地方裁判所は、右①のカード契約及び③の保証委託契約において管轄が合意(書面による合意)された裁判所であり、また、義務履行地を管轄する裁判所である。

2  相手方は、平成一二年一月一四日、基本事件につき、東京地方裁判所に答弁書を提出したが、右答弁書には、抗弁と考えられる主張として、次のような記載がある。

「一 被告はカードを昭和五六年一二月に取得して以来キャッシングサービスを利用し続けてきたが、正常に決済した期間は平成一一年三月まで一八年間(月数にして二一六か月)に及ぶ。

二  キャッシングサービスは毎月一六日以後に金二〇万円を借り受けて、翌月一〇日に決済していたのであるが、この金利は利息制限法によれば金二〇万円であれば、金三〇〇〇円以下であるのに、被告は毎回八〇〇〇円以上を支払いつづけてきました。少なく見積もっても一月に五〇〇〇円は過払いになっております。この過払の総計は一〇〇万円をくだることはない。この過払金に法定利息年五分を附して返還していただければ、原告の主張する一四二万円を超えるはずである。

三  この不当利得の返還すべき金銭をもって、セットローン(メンバーズローン)による貸金及マイカードローンによる求償金を相殺していただきたい。」

3 抗告人は、平成一二年二月一日、相手方の右主張を受けて、従前の請求を合計一三五万八六〇二円とそのうちの元金に対する遅延損害金の支払請求に減縮する旨の準備書面を東京地方裁判所に提出した。

4 相手方は、平成一二年一月一四日、抗告人が大阪に支店を設置しており、また、神戸市内に居住する相手方が東京地方裁判所に出頭する場合の経済的負担が大きいなどと主張して、民訴法一七条に基づき、基本事件を神戸地方裁判所又は大阪地方裁判所に移送することを求める申立てをし、東京地方裁判所は、同月二四日、基本事件を神戸地方裁判所に移送する旨の決定(原決定)をした。

二  右の事実によれば、東京地方裁判所が基本事件につき管轄を有することは明らかである(本件全証拠によっても、東京地方裁判所に対する基本事件の提起が相手方に対する嫌がらせに当たると認めることはできない。)。

そして、基本事件では、相手方の抗告人に対する不当利得返還請求権を自働債権とする相殺の可否が主要な争点になると考えられるが、その争点の整理のためには弁論準備手続(なお、その際には、いわゆる電話会議の方法によって期日における手続を行うことができる。)ないし書面による準備手続によることも可能であり、また、その立証については書証以外の証拠を調べる必要があるとは認められない。

確かに、抗告人は大阪にも支店を設置している。そして、相手方は神戸市内に居住しているから東京地方裁判所に出頭する場合の経済的負担等が神戸地方裁判所又は大阪地方裁判所に出頭する場合のそれに比して大きいことは否定できない。しかしながら、一件記録によれば、過去の取引経緯を記録した電磁的記録や利息制限法の計算システムは抗告人の東京本社に存すること、基本事件は東京に事務所を有する本件の抗告人代理人が追行することが明白である。これらの事実に照らすと、抗告人が大阪に支店を設置していること自体は基本事件の審理に格別影響を及ぼすものではないし、また、東京地方裁判所に出頭する場合の経済的負担等があることも、右に認定した事実に照らすと、未だ東京地方裁判所で基本事件を審理することが相手方に著しい損害を生じさせるということも、当事者間の衡平を図る必要があるということもできない。

したがって、本件の事実関係のもとにおいては、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るために、基本事件を神戸地方裁判所又は大阪地方裁判所に移送する必要があると認めることはできない。

三  以上によれば、本件移送の申立ては理由がないからこれを却下すべきであり、これと異なる原決定は不当である。

よって、原決定を取り消し、本件移送の申立てを却下することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 増井和男 裁判官 揖斐潔 髙野輝久)

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